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アルハンガイで水難に遭ったこと

 アルハンガイに滞在した約2週間。

大草原の中の小さなゲルで、毎日、のんびり過ごしたような気もするし、色んなことがあったような気もする。

いつかFBにでも書こうかな、と思っていた衝撃的な出来事を一つ、せっかくなのでこちらに書いてみようと思う。

 

滞在もあと二日を残すばかりとなったある夜。

その日は一日中晴天だったせいか、上がりすぎた気温を冷ますかのように、夕方から天気が崩れ出した。

ゲルを打つ雨音は、刻一刻と激しさを増していき、やがて深夜を迎える頃には雷雨となった。

天窓から稲光が差し込み、何度もゲルの中を照らし出した。

そして轟音。

どんどん近づいて来る雷鳴と、ゲルを叩きつける雨音に、もやは眠るどころではない。

が、落雷か、というような音が響き渡っているのに、ゲルの中は、誰一人起きない。

(何でなん、こんなん、モンゴルでは普通なん??)

その時、突然、凄まじい音がした。

入り口の扉が強い突風で押し開けられたのだ。

真正面で寝ていた私に向かって、雨と風が一気に吹き付けた。

一瞬、このまま寝ていられるかやってみようなぁ、とバカなことを考え、いや、そんな場合じゃない、と半身を起こした。

目隠し用の小さなカーテンの陰に隠れる形になって、掛け布団と私は守られたが、敷布団が見る見るぐっしょりと濡れていくのが暗闇の中でも分かった。

左右のベッドで寝ていたガンバやトンガー、チムゲさんも起き出した。

そして、ガンバがベッドから足を下ろした瞬間、うろたえて何か叫んだ。

そんな夫に、トンガーが苛ついたようで、

「早く行きなさいよ!」

「分かってるよ!」

こんな時まで奥さんに怒られるガンバ。

懐中電灯に照らされた床に目を凝らすと、驚いたことに、私のベッド下から入り口に向かって、川のように水が流れていた。水量も結構ある。

ガンバがその辺をウロウロしている間も、叩きつけてくる風雨になす術も無くさらされ続ける私。

寝ぼけた頭で何かいい方法がないかと考えるが、どう考えても、どうしようもない。

ガンバが開けっ放しになっていた扉を閉めて、見回りに出て行った。

やがて、誰かが電気を付けてくれたが、そこはモンゴル。

ガンバも帰ってきて、 皆で、ワイワイ騒ぎ終えると、特に何もしないまま、

「じゃ、寝るか」

となった。

 

私は半分びしょぬれになった布団を見つめ、とにかく、眠れる方法を考えた。

ここはゲル。予備の布団などない。

夢枕獏の本で、どっかの登山家が氷壁を登っているとき、登攀に必要な何かを落としたにも関わらず、代わりの何かで登り続けた、という話を読んだことがあった(ウロオボエ・・・)。

用意していたものがなくなったから、といって後戻りせず、あるもので、どうにかこうにか間に合わせてやり過ごしていくそのやり方が、私の心に残った。

 

私はリュックからウィンドブレーカーを引っ張り出し、なるべく大きく広がるようにして布団の上に敷いた。

試しにその上に寝転がってみると、全く水気を感じない。

「ナオコ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫、大丈夫」

 明るく答えた。

なるべく小さく身をかがめながら、いつの間にか寝てしまい、翌朝、すっきりと目が覚めた。

モンゴルの乾燥した空気のお陰で、あれほど濡れていた布団も、翌朝にはほとんど乾いていた。

人間って、どこでも寝られるんだなぁ、と我ながら感心した。

 

結局、あれほどの床下浸水だったのに、被害は0に近かった。

ゲルには、濡れて困るものなど、ほとんど何もなかったのだ。

以前、ある人から、モンゴルでは床に物を置かない、ということを教えてもらったのだが、もしや、その理由はこれか、と思ったりした。

外に出てみれば、昨日と何ら変わらない草原が広がり、家畜たちがのんびり草を食べていた。

朝食を食べながら、皆で「昨日はすごかった」という話になったとき、チムゲさんが「これがモンゴルの津波だよ」と冗談を言った。

チムゲさんはこのジョークが気に入ったらしく、その後も、この日の雷雨の話になると、必ず、津波のネタをオチにしていた。

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