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モンゴル滞在記

ウランバートルに滞在中。見たこと、聞いたこと、思ったこと、いろいろ発信中。

読書記録~『冬のモンゴル』 磯野富士子~

モンゴル 語学

『冬のモンゴル』、読みました。

冬のモンゴル (中公文庫)

冬のモンゴル (中公文庫)

 

 

著者は、元々英語畑の学者でありながら、モンゴルへ渡る、民法学者の夫に同行。

戦争の影が忍び寄る中、モンゴル語を学びつつ、現地調査を行う。

内モンゴルの田舎で、数ヶ月暮らし、モンゴル人と交流を深める。

やがて、戦局が悪化、著者は北京に残り、夫だけが内モンゴルへと戻っていく。

 

感動しました。

「学問とは何か」「調査とは何か」「命をかける意味があるのか」と、自分に問いかけつつ、その疑問を振り切って、没頭していきます。

そして、一年足らずの間にモンゴル語を習得、風習などに関する様々な情報を得ていきます。

 

私にとって、この作品の魅力は三つ。

 

 

その1、著者の学問に対する美しい理想

 

「人間が人間である以上これは夢であるか も知れないけれど、研究の対象を検討するのと同じ客観的な冷静さをもって、自己の心と行動を批判することに努め、自我を捨てて真理につくことを真剣に願う 人たちが、共通の研究目的によって結ばれたなら、それはこの世で作り得る最も美しい人間関係の一つではないだろうか。もし世界中の学者がこうした心で結び つくことができたなら、そして人間が自分の主観にのみ頼らないで、全体の中にある自己というものを客観的に眺められるようになったら、今日ある大小の難問 題の多くは解決される時が来るような気がする。

本当の学問ができるようになりたいと常に願いながらも、すぐにガツガツと机にかじりつき、自 分だけの知的貪欲を満足させたがる私自身に、何度となく愛想をつかしながらも、自分の進もうとする行手にモスタールト師やキュリー夫妻を見る時に、私は真 の学問の持つ可能性を信じたいと思う。」

 

 

その2、夫がイケメン(多分)

 

著者の夫は、本著の中でほぼしゃべっていませんが、そこがいい。

ツァガンサルに王府を訪問した際、周囲のあからさまな目線に耐えかねて、著者が夫を残して先に帰ってしまうシーンがあります。

「夫は自分がこの戦争を生きのびないかもしれないことを思って、少しでも多くのことを私に見せておきたいのだ。それをよく分かっているくせに、いざとなるとどうしても周囲のことに圧倒されてしまう私は、学問を志すものとしてあまりにも不甲斐なさすぎる。何だかすっかり情けない気持になり、いろいろ話しかけて来るドゴルチャップにも生返事しながら、細い裏道を抜けて帰る。」(本文より抜粋)

著者目線の夫像に、ぐっと来るシーンです。

本著は、著者が夫を残し、一人で北京へ向かうシーンで終わっています。

ぜひ、映画化してほしいなー。

 

 

その3、モンゴル語の勉強の仕方が分かる

 

大変個人的な理由で恐縮ですが、「そっかー、このくらい、喰らいついていかないといけないんだなー」と思わされました。

夫にいつ召集がかかるか分からない、時間的にも金銭的にも余裕がない、そんな中で、それでも、学問という、己が信じた人類普遍の真理のために、全てを捧げて調査を進めていくという、極限状態を思えば、私の苦労なんて、月とすっぽんどころか、ミジンコだと思いました。

本著は、日記形式なのですが、著者のあまりの習得の早さに、恥ずかしながら、何度も日付を確認しました。

民俗学的見地から、著者は驚きと感動をもって知識を蓄えていくのですが、びっくりしたのは、著者が大切に拾いまくっている情報の中に、

「あれ、私もこれ、どっかで聞いた気がするなー」

「これ、誰か教えてくれてたけど、よく聞いてなかったなー」

という点が、結構あったということです。

緊張感ゼロとはこのことです。何で、いでつもどこでも、リラックスしてんだよ!私!

これからは、もっとしっかり生きていこうと思いました。

 

 

以下、ネタばれです。

ウィキで調べたら、終戦を内モンゴルで迎えた夫である磯野誠一氏は、その後、ウランバートルで捕虜として収容されたようです。

無事、日本に帰国された後、こちらの本が夫妻共著で出版されていました。

家族制度―淳風美俗を中心として (1958年) (岩波新書)

家族制度―淳風美俗を中心として (1958年) (岩波新書)

 

 

  調べていたら、当時の内モンゴルを描いた、こんな本も出版されていました。いつか読んでみたいな。

熱河宣教の記録 (1965年)

熱河宣教の記録 (1965年)

 
荒野をゆく―熱河・蒙古宣教史 (1967年)

荒野をゆく―熱河・蒙古宣教史 (1967年)

 

 

 

 

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(アルハンガイにて。2016夏)