ナオコの旅

持っているものでやり遂げる 喜んでしようと思ったとおりに

蓼喰う虫も①

皆さま、こんにちは!

面倒臭くて、部屋の蚊を退治せずにおいたら、日に日に巨大化していってて、ちょっと恐怖を覚えております

私は先月、無事日本に帰国し、ようやく落ち着いたような、次のステップへ向けて落ち着かないような、中途半端な日々を送っております

 

帰国して早々、家の者が急性胃腸炎で近所の病院へ救急搬送され、それ自体は大したことはなかったのですが、長旅の疲れもあってか、看病している間に私にも罹患してしまいました

お客がいらっしゃっているのに、内臓器官は一斉に開店休業

飲めど食えど、何一つ消化されないという不毛さ

そして、脳裏によみがえるある一つの記憶

そう、あれは、幼い頃にお寺で見せられた地獄絵

その中に描かれていた、飲んでも飲んでも、決して潤い安らぐことなく、未来永劫渇きに苦しめられ続ける餓鬼たち…

もしやあいつらのモデルは、急性胃腸炎の患者では…?

けれども、久しぶりに日本に帰国したこの身は、どうしても日本食が食べたい!

食べても無駄になると分かっている!

けれども、食べたいんだ!

食べては悶え苦しみ、のたうち回ってはまた食べる、その姿は、まさに地獄の餓鬼そのもの…(ちょっとは我慢して寝てろよ)

欲とはまこと恐ろしいものでございます…

 

その後、症状も無事収まり、食べたかったものを順に制覇

しばらくは近所のスーパーに行くのが、楽しくて仕方ありませんでした

そこは、まさに夢の国

食品売り場、それはまさにこの世の宝島!!

いったい、何度、買い物かご片手に踊り出したくなる衝動をおさえたことか

ビバ!日本の食卓!!!!

ああ!日本に生まれてよかった!

 

帰国後、ゆっくりした時間を過ごす中で、思わされたことの一つは、人生が折り返し地点に来たということ

私は子供の頃から本が大好きですが、名作だと知りながら、未だ手つかずのままのたくさんの物語があります

そろそろ片付け始めないと、間に合わなそうです

 

という訳で、記念すべき第一冊目がこちら

夜間飛行 (光文社古典新訳文庫)

夜間飛行 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 傑作です

私がどれくらい感動したかというと、私は気に入った文章を抜粋するのが好きなのですが、以下、まずはご覧ください

 

(以下、『夜間飛行』より抜粋)

「サンフリアンに着陸しようとエンジンの回転数を落としながら、ファビアンは疲労感に襲われた。ひとの暮らしにぬくもりを添えるなにもかもが、自分にむけて迫ってくる。人びとが暮らす家、いきつけのカフェ、いつもの散歩道の木立ち。彼は、征服した宵闇のなかに立つ覇者に似ていた。みずからの帝国の領土に思いをはせ、そこに人びとのささやかな幸福を見出す征服者である。いまは武装を解いて、ものいう気だるさや、体のふしぶしの痛みを心ゆくまで感じる必要があった。みじめさのなかにあってなお、人は豊かでいられるからだ。ひとりの素朴な人間としてここに住み、窓の外に、もう二度と目の前から飛び去ることのない景色を眺めてみたいと思った。それがこのつつましい村であろうとも、自分はありのままに受け入れることができるだろう。ひとは一度なにかを選び取ってしまいさえすれば、自己の人生の偶然性に満ち足りて、それを愛することができる。偶然は愛のように人を束縛する。」

 

偶然は愛のように人を束縛する!!!

しびれます

 

「監督官とは愛の歓びを交わすためではなく、報告書をまとめるために創られた存在だからである。」

 

「『あまり頭がいいとはいえない。だからこそ役に立つ。』

 

「『あの男はなにひとつ考えない』とリヴィエールは評していた。『おかげでつまらない間違いをせずにすむ。』」

 

「『決まりというものは宗教の儀式に似ている。不条理にみえても人間を鍛える。』公平に見えるか不公平に見えるかは、リヴィエールにとって問題ではなかった。(中略)リヴィエールにとって人間とは、こね上げられるべき蠟の素材にすぎなかった。この物質に魂を与え、意志を創造しなければならない。だが峻厳さで人びとを服従させるのではない。自己の限界をうち破るよう彼らを駆りたてることが重要なのである。あらゆる遅延を罰すれば、それは不公平なことだろう。しかしすべての飛行場に、出発への意志をもちつづけるよう仕向けることになる。彼はその意志を創り上げていた。飛べない天候を、休息への誘いであるかのように歓迎する、そんなことは誰であろうとゆるさない。ゆるさないからこそ作業を貫徹する気概が生まれ、名もない雑務係までが待機時間をひそかな屈辱と感じるようになる。鎧の一瞬の隙さえ見のがさなくなるのだ。『北の方角に晴れ間あり、出発!』」

 

「リヴィエールは折りにふれてこう口にした。『この男たちは幸福だ、自分の仕事を愛しているからだ。なぜ愛しているかといえば、わたしが厳格だからだ』おそらくは部下たちを苦しめていただろう、しかし強い喜びを与えてもいたのだ。『ひとは追い込まなければだめだ』と思っていた。『苦しみと喜びが共に持つ、強い生に向けて追い込んでやらなければだめだ。それ以外、生きるに値する人生はない』」

 

「リヴィエールはいつも断言していた。『音楽家が不眠で美しい曲を書くのなら、それは美しい不眠というものだ。』あるときなど、現場主任のルルーを指してこう言った。『美しい者として眺めたまえ、恋に無縁なあの醜さこそを、美しいものと呼ぶべきだから』。ルルーの偉大さはすべて、生涯仕事にうち込むしかなかったその醜さのおかげだというのである。」

 

「『君を本来の立場に戻してやろう。たとえ疲れたにせよ、君を支えるためにパイロットがいるわけじゃないんだ。君は責任者だ。責任者の弱みなど、もの笑いの種だ。さあ書きたまえ』『あの……』『書きたまえ。“監督者ロビノーは、かくかくの理由でパイロットのペルランにしかじかの処罰を与えるものである”。理由は適当に添えておきなさい』『社長!』『いいから、ロビノー、言われたとおりにするんだ。部下を慈しめ。だがそれを口に出すな』」

 

部下を慈しめ。だがそれを口に出すな…

ぐっと来ます

 

「針の角度が開くにつれてものごとが進んでいくはずなのに、そうはならない。待たされる時間をまぎらわそうとリヴィエールは部屋を出た。役者のいない部隊のように、空はがらんと空虚に見えた。『こんないい夜をむだにするのか』。空は晴れ、満点の星が煌めいている、この星々、聖なる道標。この月、浪費されたみごとな夜の金貨。それを窓から恨めしく眺めた。」

 

「そのときもリヴィエールは今夜のように孤独を感じたが、すぐにその孤独の豊穣さを悟ってもいた。」

 

孤独の豊穣さ…!かっこいい… 

 

「リヴィエールが立ち上がると、事務員がきて言った。『業務報告です、ご署名をいただけますか』『よろしい』 リヴィエールは相手に篤い友情を感じた。この事務員も夜の重荷を担っているのだ。『戦友だ』と思った。『だが、わたしたちの絆が夜勤を通じてこれほど強まっていることなど、おそらくこの男はけっして知ることがないだろう』」

 

「『わたしは公平なのか、不公平なのか? どうでもいい。罰すれば事故は減る。事故の原因となるのは人間ではない。ひとたび罰しようと思ったらすべての人間を罰しなければならなくなるような、ひとの手には負えない漠然とした力なのだ。わたしがごく妥当に、穏当に処していたら、夜間飛行は毎回死の危険を招くものになっていたはずだ』」

 

「『ものごとというものは』と思った。『ひとが命じ、ひとが従い、それによって創り出される。人間は哀れなものだ。そしてひと自身、ひとによって創られる。悪がひとを通じて現れる以上、ひとを取り除くことになるのだ』」

 

「ものごとが決するさまは奇妙だ、とリヴィエールは思った。『漠然とした大きな力が立ち現われる。それは原始林を生み出し、成長させ、支配する力と同じものだし、大きな仕事の周辺で、いたるところに出現してくる浸食力とも同じなのだ』。小さな蔓に絡みつかれて倒壊してしまう神殿を思い浮かべた。」

 

「妻のほうは、制覇されるために放棄されるものへと思いがむかう。『自分の家庭がきらい?』『自分の家庭は好きだよ……』 だが夫がもう歩み出してしまったことはわかっていた。広い肩はすでに大空に立ちむかおうとしているのだ。」

 

パタゴニア便の乗務員たちを思うと、リヴィエールは胸がしめつけられた。人間の行動、それも人びとのために橋を建造するような行動でさえ、個の幸福をうち砕くことがあるのに、問わずにはいられなかった。『何の名において?』『二人とも』と思った。『いま逝こうとしているかもしれないあの二人とも、幸福な人生を送ることができたはずだ』。夕暮れのランプが金色にともされた食卓、その聖域でうつむいて祈る顔が心に浮かんだ。『自分は何の名において、そこから二人を引き離したのか』。何の名において、個人としての幸福を剥ぎとったのか。 最優先されるべき原則は個の幸福を守ることではないのだろうか? だが自分がそれを破壊したのだ。とはいえあらゆる金色の聖域は、いつかは蜃気楼のように消滅してしまう宿命にある。リヴィエールよりさらに無慈悲な、老いと死に破壊されるからだ。おそらくは救うべき別の何か、より永らえる何かが存在するのだ。おそらくは人間のその領域に属するものを救うために、リヴィエールは働いているのではないか。そうでなければ、この活動を正当化することなどできはしない。」

 

「『愛する、愛する、ひたすら愛する。それでは行き詰まるだけだ!』 リヴィエールには、愛するという責務よりさらに重い責務があるという漠然とした感覚があった。」

 

「リヴィエールは、野外音楽堂のあたりを散策するささやかな街の民の姿を思い出した。『首輪につながれた飼い犬のような、あの種の幸福……』と思う。 」

 

この抜粋の量(笑)

興奮のあまり、PCのキーを叩きまくる私

 

魂にぐっとくる言葉の羅列に、今自分は間違いなく世界の遺産を体感しているという実感がわいてきませんか?

そして何よりも、あまりにも遠い世界の物語でありながら、不思議とこれまでの自身の経験に触れる部分があります

これが、人生折り返しを迎えた読書の醍醐味なのかもしれませんね…(遠い目)

 

 

ちなみに、その他、最近読み終えた本はこちら(あれだけ書いておきながら、早速、世界の名作とかじゃなくて恐縮です)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 

 

「さあ、俺を笑いたいんだろ…ほら、手に取れよ…笑えよ…」と言わんばかりのこの表紙…!

こんなあからさまな挑発に乗るわけにはいかない!

と、ずっと本屋で眺めるだけに留まっていたのですが、とうとう、というか、まんまと、手に取ってしまった…!

 

お、面白かった…!

青春物といってもいいのではないでしょうか

この著者、本全体から醸し出されている通り、バッタに本気!そして、すごく頭がいいし、気前がいい!

昆虫学者になるという夢に向かって、アフリカ(国名忘れた)の砂漠でバッタを追い続ける創意工夫は、本当に素晴らしい!

 

著者がアフリカへと向かう飛行機の中で、いろんなものに別れを告げる場面は、すごく共感しました

私もはじめてモンゴルへ行った時、大事にしていた腕時計を、形見分けのように妹にやろうとしたもんです(「時計は使わへんから、いらんわ」と冷たく断られましたが)

 

という訳で、この作品からの抜粋はこちら

「そもそも誰かを惹きつけるにはどんな手段があるか。自然界を眺めてみると、昆虫は甘い蜜や樹液に惹きつけられる。人も同じで、甘い話や物に寄ってくる。みんな甘い物好きだ。そこでピンときた。『人の不幸は蜜の味』で、私の不幸の甘さに人々は惹かれていたのではないか。実感として、笑い話より、自虐的な話のほうが笑ってもらえる。本人としては、不幸は避けたいところだが、喜んでもらえるなら不幸に陥るのも悪くない。この発想に至ってからというもの、不幸が訪れるたびに話のネタができて『オイシイ』と思うようになってきた。考え方一つで、不幸の味わい方がこんなに変わるものなのか。」

 

最高のポジティブシンキング!

 

 

あと、本ではありませんが、最近、姪っ子に勧められて観た映画がこちら


映画『キングダム』本編映像

 

チケットが安くなる映画デーを狙ったのはいいのですが、血迷って朝一のチケットを予約してしまい、当日、家を出るのが遅れた結果、映画館まで高速を使ってひた走るという、本末転倒な結果になってしまったのでした(しかも、朝早すぎて映画館の入り方が分からなくて迷った)

 

この作品、大沢たかおの見事な役作りが高評価ですが、私の一押しは、その隣にいた要潤

今回、特に出番のない役だったものの、

「おお!スクリーンの隅で何か光ってると思ったら、あれはもしや要潤…!?」

出番の度に地味に驚かされつつ、映画は無事、エンドロールを迎えたのでした

 

 

 

ではとりあえず、本日はこのへんで